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​コラム

療育にて目標にしていること

こんにちは。tinoとtino pinoの代表をしております、臨床心理士・公認心理師の中嶋朋子と申します。tinoが開所して6年目、tino pinoが開所して3年目を迎えました。私個人は、心理士として14年目を迎えております。若手から中堅にようやく入ったところで、研鑽の日々を送っております。

 初めてのコラムの掲載に、テーマを悩みましたが、日々療育を行っていて、大切にしていること、目標に掲げていることをつづらせていただきます。こうした考えにご賛同いただいた職員のみなさまと日々業務にあたっているため、tinoやtino pinoをご利用される上での、当事業所の考えの一端をお伝えできる機会になればと考えております。

 

治すべき悪いもの?


 仕事を始めて数年のころ、参加したとある研修にて、発達障害の大人の方がお話をされていました。その中で印象に残った言葉です。「小さいころからいろいろな先生に会ってきたけど、いちばん嬉しかったのは、〇年生のときの先生です。今まで、こうしたことを課題に取り組んでいこう、この力を身に着けよう、とやってきましたが、その先生は、治すことなんて何もない、そのままでいいんだと言ってくれました。」

 この言葉は、とてもはっとさせられるものでした。それまで、きちんとその方の見立てを立て、強みとしていること、その強みを生かして目標に設定できることを見出すことを一番に考えてきました。その前提として、そもそも発達に偏りを持つことは、その人のあり方の一つであり、「治すべき」「悪いもの」ではない。これは、その後の私にとって大きな柱になっています。

 


発達はさまざまな要因が複雑に絡み合い、生涯続く変化の過程そのもの。試行錯誤をする過程が大切。

 

中嶋個人の話になってしまいますが、大学院生時代、滝川一廣教授という方が指導教授でした。滝川先生は、「子どものための精神医学」(2017,医学書院)に代表されるように、とても平易な言葉で、子どもたちの育ちを説明してくださいます。指導教授と院生というよりは、大ファンの一人で、院生時代、滝川先生の講義や、各所で行われるカンファレンスについて行かせていただき、一言一句、なるべくもらさず速記のようにノートにとり、繰り返し読んでいました。中嶋の考えは滝川一廣先生に影響を強く受けており(そう思いたいです、ただ滝川先生のお考えをどれだけ理解できているのか、いつも自信がありません)、tinoやtino pinoの療育観につながっています(もしそれが実現されているなら本当に幸せです)。

 滝川一廣先生は、神経発達症を始め、子どもたちが示すさまざまな様子を、突出した異常性とは捉えていません。また、たとえば「言葉の発達」一つとっても、言葉の発達だけが単独で進むのではなく、人や社会と関係性を築く力の発達と、物事の名前や知識、理を知る力の発達、それぞれを2軸に相互に影響しあって進むものとおっしゃっています。これは、日々子どもたちと接していてもとても実感を持つものです。とある、自閉スペクトラム症と診断されている男の子、発語は少ない、相手の言葉を受け取るのが苦手、とされていましたが、特定の先生と、特定の好きな戦いごっこをしていると、長い攻撃技名も正確に聞き取って復唱し、何度か復唱しているうちにその子の「必殺技」として定着したことがありました。これも、「必殺技の名前を覚えた」という認識の発達と、「自分の好きなもので楽しく遊んでいる先生の言葉を聞きたい、復唱したい」という関係性の発達、相互が影響して必殺技の名前を習得した一例です。なので、療育において、「必要なことを教える、理解してもらう」認識の発達だけでなく、「好きなことを人と共有したい、人と場をともにすることが苦じゃなくなる、伝えたい気持ちを高める」関係性の発達も大切にしています。

 


各段階での療育目標


以下は、その人によって本来は大きく目標設定は異なるものの、概ねの目安として考えている内容になります。また、これは個人の臨床経験に基づく感覚であり、療育にはさまざまな理論的背景があることが前提になります。



 幼児期


 幼児期のお子さんと療育的に関わる場合、まだそのお子さんは相談や療育につながって間もなく、ご家庭での困り感や園生活など、探り探りなことが多いかと思います。一定の発達検査などを経てお子さんの力のアセスメントは受けられている場合が多いですが、まだ指示に応答する力、自分の意思を伝える力など、まだ経験を積めていないこともあります。

 幼児期では大きな柱として①好きな活動を通して着席する習慣を持つ、②スケジュールカードに沿って見通しを持って行動できるように経験を積む、③自分なりの意思表示の仕方を探る、ことを大切にしています。

①では、その子が何かこれなら集中できる、好きで取り組めるという活動に集中できるように環境を整えながら、時折「着席」のカードを見せることで「今は座る時間」とやることがわかって座れるようになることを目指しています。また、今後のそのお子さんの成長の歩みにとって「好きに没頭できる力」はそのお子さんを守る大切な術になっていきます。

②では、「今は何をする時間なのか」「次に何をやるのか」「ここは何をする場なのか」「この先に何があるのかがわからないので、今やっている好きなことを止められている、制限されているように感じる」など、何をするのか見通しが立たないために行動が混乱するお子さんが多いため、わかりやすく提示することで、不安にならずに落ち着いて行動できることを目指します。そのお子さんの力によって、スケジュールカードが何枚だとわかりやすいか、写真なのかイラストなのかなどカードをどの程度シンボル化させるかを考えます。

③では、幼児期の場合「言葉の遅れ」が主訴になっていることが多く、もちろん言葉を促すためのアプローチを考えていくのですが、言葉はよく「氷山の一角」とたとえられ、発語の力を促すには、その支えとして、生活リズム、運動面、感覚のこと、知的な力、興味関心など、非常に多くの力が関係しています。なので、いきなり言葉での発語にのみターゲットを絞ってアプローチをするのではなく、全体的な発達の様子を確認しながら、そのお子さんが今いちばん使いやすい意思表示の仕方を探っていきます。「伝わった」という成功体験を積むことで、「もっと伝えたい」と発信のモチベーションになっていきます。特に、視覚的構造化などで、「指示の理解」「今何をすべきかの理解」など、指示の受け取りばかりが進み、「疲れた」「休みたい」などのネガティブな表現を含む、発信の方法を探ってあげられないと、そのお子さんの精神的な負担につながってしまうため、その子が意思表示をできているかは丁寧に見てあげたいと考えています。

 これら①~③は、「こうすべき」と思っているわけではなく、そのお子さんが、これからこの社会の中で居場所を作って、ストレスなく自分らしく過ごすために、こうした方法で整理がされていると、過ごしやすくなるのではと信じて取り組んでいます。

 


小学校低学年ころ


 このころから、幼児期のように家庭の中で安心して見守られることだけではなく、社会の中で認められること、居場所があることがとても大切な時期に入ってきます。ただ、認められているかどうかが、人からの評価にばかり頼ってしまうと、理解のある人ばかりではない環境では辛くなってしまうこともあります。そのため、①自分で自分を認められるように、自分の好きなことにとことん向き合う時間を大切にする、②ソーシャルスキルトレーニングを通して社会場面での振る舞い方を知る、の二本柱が大切になります。

 ①電車でも、虫でも、推しキャラでも、その子の好きなことをとことん一緒に楽しみたいと考えています。最初のうちは、先生の手伝いによって自分の「好きに没頭」が展開していくので良いと思いますが、長い目で見ると、自分の力で完結していかれることも大切かと思います。

 ②一緒に、その子に必要と思われるソーシャルスキルを考えていかれたらと考えていますが、こちらが一方的に「これが必要」と判断するのではなく、日常のエピソードを危機ながら、「じゃぁこう対応できるとよさそうだよね」というのを、お子さんと一緒に取り決めをして、頑張れると良いです。「合意形成」と言ってとても大切にしているポイントですが、大人の側がこれが必要、と決めたルール、お子さんが守ることに納得をしていない場合、定着が良くないことが多いです。その子なりに、頑張りたいなと納得して取り組んでくれたこと、そうしたことであれば、完璧でなくても、少しの変化でも、お子さんにとって手ごたえになると感じています。

 

小学校中学年ころ


 この時期になると、一般に「ギャングエイジ」と呼ばれる発達段階に、お子さんみんなが入ってきます。この時期は、大人としての介入はとても難しく、大人のいない、同年代の子どもたち同士のつながりが強くなり、仲間意識を強くします。この仲間意識の高まりのために、「自分たちと違う」ことが気になり、行動化してしまうことが多くなります。発達に課題があるために、目立ってしまい、嫌なことを言われてしまう、またまだこの年代のお子さんたちは行動がエスカレートしたときの抑制が弱いため、ほかのお友達の方も攻撃を「しすぎ」「やりすぎ」の範疇を超えてしまうことがあります。この時期は、発達に課題があるお子さんを、無理に集団の中に入れることは、気を付けて様子を見る場合があります。「集団にもまれて経験を積む」ことももちろん大切だと思いますが、理不尽な攻撃を受けるなどの「迫害された」という体験は、何かを学ぶ、のようなプラスのものではなく、守って回避させてあげたほうがよいと考えます。集団のほうも落ち着かない時期、無理に集団の中で学ぶよりも、引き続き自分の「好きに没頭する」力を保つ、そのことで毎日ご機嫌に過ごすことができる力が高まることは後のメンタルヘルスにとても大切です。

 ただ、これは、本人が望んでいるのに無理に集団から取り出す、というほど極端でなくても、集団の中で楽しく遊んでいるし、お友達と過ごすのも楽しいけど、それと同時に、自分一人で自分の好きなことで遊びこめる時間も保障し、お友達と少しこじれたときはいったん離れてマイペースに過ごす、そうしたコントロールを経験できると良いなと考えます。

 

思春期以降


 小学校高学年、中学生、と経過していくと、いよいよ大人の入り口「自分はどんな人かを知る」「自分を知って自分と付き合う」ことが大切になります。数年の経過を経て、一緒に対話を重ねてくることができたお子さんたちとは、自然に「僕ほんと忘れっぽいんだよ」「友達といるとよくわかんないけどトラブルになることがあるから、わかんないときは黙ることにしてるんだ」など、普段の自分の様子をよく振り返り言語化できるお子さんも多いなぁと感じます。これは、発達の特性のあるなし、子ども大人関係なく「自分を知り自分と付き合う」は生涯にわたる、人の毎日の営みの、本当に大きなテーマだと思います。

 たとえば、多動傾向がある人は、別にそれが悪いことではなく「じっとしてるのきついから、電車待つときはホームを歩き回ることにしてるんだ」、聴覚過敏がある人は「私人の声がざわざわしてると頭痛くなるから、イヤホンは必須なの」など、対処がとれると良いなと思います。また、そうした自分を知っていて、対処をしてコントロールすることができている自分を、「自分すごいな」と感じてほしいです。

 こうした話題を話していくには、関わる大人自身が、自分を見つめなおしたり、自分の癖を知る作業が大切だなと感じています。子どもの育ちに寄り添うことは、自分を育てること、と本当に痛感します。

 こうした対話は、知的に高いお子さんだけではなく、いろいろなお子さんと大切にしています。たとえば、言葉でうまく発信できなくても、こちらで様子を見ていて、「おそらく今音がざわざわして落ち着かないのかな」と感じることがあれば、絵カードを提示して”うるさい”→”イヤーマフ”→”安心”の表情カード、を提示して、なるべく自分に何が起こったのかを知らせる努力をしています。保護者の方からの聞き取りで、だいぶ疲れていそう、実際元気ないかも、と思えば”つかれた”の絵カード→”おやすみする”を提示して、自分の疲れ、休みたいという状態、といった「自分」をなるべく知ってほしいなと思います。

 

 これらの目標は、その人が、無理なく、自分のペースを知って、自然に毎日を過ごすために立てているものです。

 

 tinoの開所当初からお仕事をともにさせていただいている、地域では「レジェンド」と評された言語聴覚士の先生が言っていた言葉で、6年目の今も心に残っている言葉があります。ケースカンファレンスを行い、みんなで難しい話をしあって眉間にしわをよせていたときに「結局子どもは可愛いよねぇ」とおっしゃいました。この言葉が、tinoやtino pinoで大切にしていること、そのものかなぁと感じています。

 「毎日いろいろありますが、子どもたちの可愛い”困った”を一緒に大笑いしながら、子どもたちの”楽しい”を増やしていきたいですね」これも、職員である保育士の先生と話した言葉です。

 こうした思いを大切に、日々大切なお子様たちと療育的な時間を過ごして参ります。よろしくお願い申し上げます。

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